古本屋街の思い出

早稲田古本劇場 向井透史


東京の古本屋街といえば、神田の古書店街、早稲田通りの古書店街が思い出されます。神田の古本屋街はとりわけ学生時代から今日まで、よく通っていました。必ず立ち寄る本屋が20軒ほどあり、本を買った後は、「さぼうる」でコーヒーを飲み、おなかがすいたら、「ろしあ亭」「揚子江菜館」「スマトラカレー共栄堂」で食事をしていました。それと、神田達磨の羽根付きたい焼きも美味しいです。カリカリ感がなんとも言えません。映画『森崎書店の日々』の中で、菊池亜希子さんと田中麗奈さんがこの羽根付きたい焼きを食べていました。

 私の知識形成の源泉は文化の街、神田神保町古書店街と言っても過言ではありません。もうひとつの古本屋街は早稲田通りに点在する各古書店です。今では20店ほどに減ってしまいました。

さて、院生時代、講義が終わった後、早稲田通りの「五十嵐書店」や他の古書店などに立ち寄りながら高田馬場駅まで歩いていきました。途中、音楽喫茶や甘党の店にも立ち寄りました。思い出の古本屋街です。ここでは、中国の文学、歴史、思想、政治関係などの古書を買い求めました。古書店の独特な本の匂い、文芸書、専門書、各種雑誌の品揃え、安価な古本コーナー、それぞれの店にはそれぞれの個性があり、客はそれらの本との出会いを求めて、古本屋巡りをします。昨年、「古書現世」店主向井透史氏の『早稲田古本劇場』が出版されました。店主の眼を通した、ここ10年の世相、この古書店に関わる実に様々な人々の生態、店主と客のやりとり、人間模様が時には厳しく、時には優しくそしてユーモラスに描かれています。著者の路上観察、人間観察も最高です。映画『森崎書店の日々』は神田の古本屋を描いていますが、早稲田の古本屋を描いた映画が製作されても良いかと思います。古書店の経営の難しい中で、「古書現世」の営みと発信が末永く続くことを願っています。早くコロナが終息して、以前のように歩き回りたいです。