青春映画の思い出断章 ‐日活映画を中心に-
私の趣味のひとつに映画鑑賞、ドラマ鑑賞がある。若い頃には、時代劇、西部劇、冒険映画、戦争映画、社会派映画、文芸映画など数多くの作品を鑑賞した。映画館で見た青春映画はそんなに多くはなかった。その中で、吉永小百合・浜田光男の『愛と死をみつめて』が、今でも一番印象に残っている。中年を過ぎてから、急に青春映画を見たくなり、中古のVHSビデオやDVDを手に入れて、青春時代に戻り、若者たちが困難を乗り越え、明るく前向き生きる姿を見た。青春映画には友情、恋愛、助け合い、生きる喜び、切ない別れ、悲しみなどが描かれていた。そこで、改めてこの時代の若者たちに共感を覚えた。それは良き時代であった。今では、日活の青春映画は、AmazonのPrime Videoで、かなりの作品を視聴できる。
さて、今日はこの青春映画について、少し語ろうと思う。
1960年代は青春映画全盛期である。この時期は同時に、経済の高度成長、東京オリンピックの開催、技術革新、高速道路や地下鉄の拡大、高層ビル建設などが行われ、上り坂の時代の真っただ中にあった。日活を中心に東映、大映、東宝、松竹などの各映画会社は競って青春映画の作品を制作した。青春映画のなかで青春歌謡曲とタイアップする形で制作されたものが、青春歌謡映画と呼ばれた。歌手が映画に主演し、映画俳優もまた歌い手として、一世を風靡したのである。当時、御三家と呼ばれた橋幸夫、舟木一夫、西郷輝彦出演の映画が作られ、この後三田明が加わった。青春映画の相手役の女優には、日活では吉永小百合、和泉雅子、松原智恵子、西尾三枝子、伊藤るり子、十朱幸代などがあげられる。他の映画会社の相手役女優として、東映は本間千代子、大映は高田美和、松竹は尾崎奈々、東宝は内藤洋子などがいた。青春映画には、日活では相手役男優として浜田光夫、山内賢を中心に、高橋英樹、渡哲也、和田浩二、石坂浩二、杉良太郎などが加わつた。
青春映画のなかで、純愛路線を営業の柱としたのは日活である。日活はアクション映画(男優:石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎、宍戸錠、二谷英明 女優:浅丘ルリ子、笹森礼子)を中心に、文芸映画、社会派映画、戦争映画などを制作していたが、文芸映画に代って、純愛映画を柱として 60年代前半、多くの青春映画を世に送り出した。1964年公開された『愛と死をみつめて』は、日活歴代映画作品のなかで、最高の興行成績を収めた。吉永小百合の全盛期は60年代前半までで、彼女は歌手としても多くのヒット曲を生み出している。なお、『愛と死をみつめて』は2006年、TV朝日で草彅剛・広末涼子のコンビでリメイクされ、放送された。この作品でヒロインを演じた広末涼子の演技はかなり良かった。ただ、1960年代の街並みの雰囲気は画面からは感じられなかった。
舟木一夫は日活映画には1963年制作の『学園広場』から始まり、1969年までに16作品出演した。なかでも主演した悲恋映画三部作『絶唱』(1966)、『夕笛』(1967)、『残雪』(1968)は多くの観客の涙を誘った。出演した各映画の主題曲や挿入曲もまた次々とヒットした。好きな映画は『北国の街』、『高原のお嬢さん』、『残雪』、『青春の鐘』であり、相手役女優は和泉雅子、松原智恵子である。1969年に制作された『青春の鐘』を最後に日活での青春歌謡映画はほぼ終了した。因みに、西郷輝彦は日活映画には7作出演している。なかでも、純愛と友情そして親子の愛情を描いた『涙になりたい』(1966年、森永健次郎監督、相手役女優松原智恵子)は、感動を呼ぶ作品に仕上がっている。
東京オリンピックが開催された1964年以降、日本の高成長は翳りをみせ始め、しだいに成長の鈍化・安定路線へと移行していった。この時期もっとも青春スターとして活躍したのが、先ほど触れた吉永小百合である。吉永小百合の演ずる「強くて明るくて開放的な女性」は、まさに戦後復興のシンボルであった。1965年以降、復興期が必要とした女性像、若者像、青春像はその使命を終えつつあった。
この時期、日本映画は斜陽産業となり、テレビがそれに代っていく時代でもあった。映画のキャスト、スタッフたちも主な活動の場をテレビの世界へと移していった。1971年11月、日活はロマンポルノ路線に転換し、「日活」は大きく変貌した。1971年12月には、経営悪化に陥っていた大映が倒産した。
日活の青春映画の監督には、斎藤武市、西河克己、森永健次郎、柳瀬観、中平康、西村昭五郎、松尾昭典などがいた。なかでも、柳瀬観は舟木一夫が主演した『北国の街』『東京は恋する』『高原のお嬢さん』の作品を監督している。
この他、『キューポラのある街』の監督であつた浦山桐朗もその一人であり、社会派監督としても知られていた。彼の作品『非行少女』(和泉雅子主演)はモスクワ国際映画祭で銀賞を受賞し、和泉雅子の演技力も高く評価された。
なお、2012年9月10日、日活は会社創立 l00年を迎えた。
そして、映画ではなく、実際に会えたスターとしては、舟木一夫と杉良太郎が挙げられる。舟木一夫はコンサートで、歌声や舞台の演技を楽しむ観客として、杉良太郎とはとある地方都市のアーケード街にあるレコード店の前で、新曲(映画『花の特攻隊』主題曲)のキャンペーンをしている杉良太郎と間近に会えた経験がある。彼は当時から歌もうまく、スター性のある俳優であった。
以下の参考文献は神田の古書店、通販サイト「日本の古本屋」などで収集した。
参考文献
・『純愛の精神史-昭和三十年代の青春を読む‐』 藤井淑禎 新潮社 1994
・『昭和が明るかった頃』 関川夏央 文春文庫 2004
・『小百合ちゃん』 中平まみ 講談社 2011
・『愛と死をみつめて』 大島みち子・河野実 大和書房 1964
・『愛と死をみつめて 終章』 河野実 大和書房 2005