華僑・華人を知る本

地理学者であり、世界のチャイナタウンの研究者でもある山下清海氏(筑波大学名誉教授)が、明石書店から新著『華僑・華人を知るための52章』を出版した。この本は、明石書店の「~を知るための〇〇章」のシリーズの一冊で、従来の共同執筆者によるものとは異なり、52章と15本のコラムが山下氏一人によって執筆されている。著者の40年以上にわたるフィールド調査の成果を反映しており、統一された全体的なテーマがあるため、著者の考え、主張が一貫して展開されている。山下氏の華人に対するこだわりを凝縮し、貴重な著作である。

本書は「華僑・華人とチャイナタウン」「歴史」「出身地と方言集団」「経済」「政治」「社会・教育」「食文化と生活」7つの分野から華僑・華人について詳しく掘り下げている。また、著者が現地で撮影した130枚以上の写真も掲載されており、文章とともに臨場感を味わうことができる。地理学者である著者が撮った写真は、その配置もうまく、本書の読者にとって大変役立つ。

1950年代以降、特にシンガポールやマレーシアでは、現地化した中国人移民を華僑と呼ばず、華人(居住国の国籍を取得)と呼ぶようになった。このため、本書でも華僑と華人を明確に区別している。さらに、「中国人」という意識は薄れ、居住国の国民としての帰属意識や国家意識を持つようになり、当時出版された華文の文芸作品にもそのような意識が色濃く反映されていた。

 

華僑・華人を知るための52章 山下清海著


本書は関心のある分野からアクセスすることで、華人社会の歴史や現況を理解することができる。例えば、チャイナタウンと食文化に興味のある読者は、「華僑・華人とチャイナタウン」を先に読み、それから興味に応じて、各分野を読み込んでいけば、華人社会の歴史発展や現況をさらに理解できる。例えば、Ⅰ「華僑・華人とチャイナタウン」とⅦ「食文化と生活」を読むと、世界各地のチャイナタウンに生きる華人の社会や文化を知ることができる。本書は世界に散居する華僑・華人やチャイナタウンを理解するには欠くことができない一書であると言えよう。