シンガポールの屋台について
多民族国家(華人76%、マレー系15%、インド系7.5%)シンガポールの食文化を知るには、安価で美味しいホーカーズ・センターにある屋台を利用するのが一番である。
筆者はシンガポールのチャイナタウンを訪れて、シンガポール華人の出身地である華南地方の福建、広東、潮州、客家、海南などの大衆料理を食べ歩いた経験がある。各地方料理の屋台のお勧め料理としては、福建料理ではエビ入りのホッケン・ミー(福建麺)、バクティ(肉骨茶: 漢方薬で味付けして煮込んだ骨付きの豚肉スープ)、広東料理ではワンタン麵、チャーシュー飯、潮州料理では魚丸麺(魚肉団子が入った薄味の麺)、粿条(米粉で作られた平たい麺)、お粥、客家料理では醸豆腐(豆腐、野菜、魚のすり身、麺などが入ったおでん風の料理)、海南料理では海南鶏飯がある。東京にはシンガポールの専門店「威南記海南鶏飯」が進出している。屋台ではマレーシアのペナン発祥と言われるラクサ(ココナツミルクの入った甘辛味の麺)も楽しめる。
植民地時代、シンガポールでは屋台が、あまり規制されることがなく、路上で自由に営業が行なわれていた。1965年に建国されたシンガポールでは、都市の再開発と観光立国を日指していたが、多くの庶民に支持を得ていた屋台の営業を停止することはできず 、従来ばらばらに点在していた屋台を許可された場所 、例えば空き地 、公園の横 、夜の空いたビル街の駐車場 、ショップハウス街の道路などで営業できるようにした。その後、屋台を一ヶ所に集めて 、水道を完備し、衛生を重視した屋台営業を行なうホーカ―ズ・センター (華語)では小販中心 、英語では Hawkers Centre)を計画的に国内の各地に配備することにした。一般向けは M RT(地下鉄)駅の傍 、バス・ターミナルの傍、ビジネス街 、団地 (HDB)内 、商店街、 百貨店・ショッピングセンターの地下、市場 、再開発されたアーケード・ショップなどに配置された。観光客向けは海岸、河口などの観光スポットなどに置かれ 、海鮮料理、サテー (焼き串肉)、スチームボート(火鍋料理)、他のエスニック料理などが中心になっている。また、各エスニック集団用の屋台 、レストランはそれぞれの集団のかつての居住区に多くある。中華料理はチャイナタウン、インド料理はリトルインディア、マレー料理は マレー人街にあるが 、利用はどのエスニック集団であろうとかまわない。
政府は経済局 、衛生局 、観光局 、消費者協会などを通してホーカーズ・センターの監視や指導を行なっている。
ホーカーズ・センターの屋台は、多民族国家シンガポールの食文化の特徴を表している。それぞれのエスニックの料理をもとにしながら、食文化の融合、交流が行なわれ、味 ・メニュー の現地化 (青・赤辛子の多用)が行なわれている。シーフードは華人、インド系 、マレー系の共通の人気料理であり、その他 、焼き飯 、焼きそば、串焼肉なども共通の料理として、それぞれのエスニック集団の味付けがなされ 、共存している。回教徒は屋台でもムスリム料理が主体であるが、「ハラル」(回教徒用の飲食店許可書)を屋台に提示することが義務づけられている。インド料理はインド系移民の多数派をなすタミル地方の南インド料理が多い。食のタブーがなく、飽くなき食を追求する華人はすべての屋台料理のお客様である。